自分語り#644 「宇宙が始まる前には何があったのか? / Lawrence Krauss (青木薫 訳) 」感想 (6832文字)
量子力学の解釈問題―実験が示唆する「多世界」の実在 (ブルーバックス)
- 作者: コリン・ブルース,和田純夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/05/21
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FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 作者: ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド,上杉周作,関美和
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最近は偶然コリン・ブルース→スティンヴン・ホーキング→ローレンス・クラウスと宇宙論・量子論についての本を一気に読むことになりました。元々ハンス・ロスリングらの「ファクトフルネス」に深い感銘を受け、人間は圧倒的大多数で同じ方向の思い込みをするものなのだ。という衝撃を受けてから「今普通に考えている宇宙の常識は先端科学の世界でも普通に常識なのだろうか?」と考えて、一番常識と反する科学と言えば「2重スリット」「観測者問題」だろうと考えて
2重スリットの実験
まずブルーバックスの量子論の本を読んでみました。タイトルを見てみると何とも自信ありげに「多世界の実在」と振ってあるのですね。私は元々「強い人間原理(Strong Anthropic Principle)」好きですから
完全健康体 ~Strong Anthropic Principle~
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多世界解釈は好きなのですが、物理学もよく分からずに宗教・哲学として「好き」というだけであって、これがどれだけ先端「科学」の分野で常識化しているのかとても気になっていました。
結論としてコリン・ブルース→スティーヴン・ホーキング→ローレンス・クラウスという名立たる科学者達の総意としては「多世界はまぁあるだろうが、永久に観測出来ない可能性が高い」というものでした。なんだか面白いですね。こういった直感に反する常識の再構築は特に「宇宙が始まる前には何があったのか? 」ではアリストテレス・コペルニクス以来ニュートン・アインシュタインを通して何度も迫られてきたことだという「物語」が強調されていて分かりやすくてとても面白いです。
特に1990年中盤以降から現代にかけて30代中盤の私達からすれば正にリアルタイムに「宇宙は膨張していることが確認された」「宇宙はほぼ平坦であると証明された」「質量が何故あるのか少し分かった(ヒッグス粒子)」ということが解明されていってることにワクワクしますね。
各書籍の中で扱われる「神」についての扱いの違いも面白かったです。
アルベルト・アインシュタインは神(ママ)=物理法則であり、神がとりうる物理法則は他にありえたのか?が生涯の命題でした。ローレンス・クラウスは最終的に観測不能な「多世界」ではどんな物理法則でもランダムにあり得るのかもしれないし(そうなるとアインシュタインへの回答は「ただの偶然」ということになる)、ある制約の元に大体こういう物理法則の範囲内でしか法則が形作れないかもしれないがどちらかすら分からない。という感じでした。
スティーヴン・ホーキングの「神」への解釈は同じくイコール物理法則であるが、それは恐らく対話可能な人格神ではないという確固たる意思を感じます。ちなみにスティーヴン・ホーキングは「強い人間原理(Strong Anthropic Principle)」は「あまり面白くないので弱い人間原理(Weak Anthropic Principle)の話をしよう」と話しています。宇宙のあらゆる定数は何故かように人間が誕生するに至る超厳密な微調整がなされているのか(Fine Tuning)に対して「それを観測出来る知的生命体・人間がいる宇宙ではそのような定数を持っていて当然」というのが弱い人間原理で、「つまりそのような観測者・知的生命体(エイリアンでも良い)がいない宇宙は存在しない=知的生命体がいるから宇宙があるのだ」が強い人間原理です。
ざっと言いましたが多分嘘です大体です。宇宙論を語る上で人間原理は避けて通れないのでコリン・ブルース→スティーブン・ホーキング→ローレンス・クラウスでもどれも出てきます。それはあまりにも哲学的解釈に踏み込みすぎるので割と嫌々触れていたりして面白いですね。こういう一片の証拠もつかめない解釈のみの世界はSF小説の方が得意なのかもしれません。
涼宮ハルヒの憂鬱 「涼宮ハルヒ」シリーズ (角川スニーカー文庫)
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- 作者: グレッグイーガン,Greg Egan,山岸真
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ベストセラー「涼宮ハルヒの憂鬱」は人間原理の観測者の絶対的立場を「涼宮ハルヒ」という特定少女に集約させたSFライトノベルです。私も大好きです。かなり同じくベストセラー Greg Egan「宇宙消失」ではシュレーディンガーの猫を自分で選択出来る神的観測者になった場合世界はどうなってしまうのかというワクワクしてしまうハードSFの大傑作です。
科学者ではなく論理学者としての立場で人間原理を語る三浦俊彦の解釈は最も私の好きなタイプの強い人間原理です。観測事実については基本的に語らないのでこれはほぼ宗教・哲学の分野ですね。立証方法もありませんが反証方法もありません。世界は面白いと思える方で良いので私はこれが一番好きです。三浦俊彦の「最強の」人間原理では一神教と多神教そして密教とループ・曼荼羅の世界まで人間原理的に「一応」に包括できます。私は宗教的立場として「神仏混淆とそれを包括する強い人間原理」なので大体この立場を支持しますが、別に何一つ証拠はないので科学的に反証が現れたら適宜修正する覚悟があります。ようは世界が楽しいと思えるようであれば何でもいいのです(反証証拠が上がっているのに宗教的立場から宇宙の始まりを創造主が7日間で作ったという力説は私の中の「何でも良い」から外れます。ここらへん伝わりますでしょうかね。証拠があるものは話が別です)。
スティーブン・ホーキングはひも理論→超ひも理論→M理論に相当な期待をよせていることが見て取れます(「私は楽観的なんだ」とも言っていますね)。ローレンス・クラウスは特に超ひも理論には懐疑的でそれを反証するための本も一冊書いているぐらいです。面白いですね。
私は高校生の時物理でニュートン力学を習って、全てのデータが正確に分かっていれば(分かるはずがないのですが)宇宙の運命は完全に計算出来て決定しているのではないかと真剣に悩んだ時がありました。これは後にラプラスの悪魔というそうですが、キリスト教プロテスタントのカルヴァン主義の予定説的と言いますか正直「なんてつまらない世界なんだろう」と落胆しました。
ですので大学に入りハイゼンベルグの不確定性原理を学んだ時は本当に安心したのを覚えています。宇宙は原理的に運命を知りようがないのだ、という安心です。
こういう時、ちょっと不思議な気分になります。宇宙の全てのデータは労力的に知り尽くす方法がないのに、それが出来れば運命が決まってしまうのではないかというラプラスの悪魔と、素粒子の速度と位置を同時に同定することは原理的に不可能である(つまり運命は確率的に決っている、そしてその確率分全ての多世界が存在する)というのは私達の生活には正直微塵も影響を与えませんが、そう思えるかどうかでこんなに人生観が変わるのは何故なのでしょう?(それを宗教・哲学というのであれば、何故私がこれほど強い人間原理の論理哲学的な面に固執するのかが分かりますね)
A Universe from Nothing: Why There Is Something Rather than Nothing
- 作者: Lawrence M. Krauss
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ローレンス・クラウスの「宇宙が始まる前には何があったのか?」は原題「無から始まった宇宙 〜何故、無いではなく、在るなのか。〜」です。御覧くださいこの洋書のブックデザイン、私こういうの大好きです。科学的な題名の代わりに「Techno House Party」とか代入してもいけますね。こういうセンス大好きです。
スティーヴン・ホーキングの「ビッグ・クエスチョン」では一般人に向けて「宇宙が始まる時は何があったのか」という質問に「始まる前、という時間がなかった、宇宙は時間(と空間)と共に誕生した」という解を述べています。数式が分からない私達の悲しい問題がここにあります。その時間が始まる「前」(ホーキングはそれはおかしいという、何故なら時間がそこで始まったのだからその前はないのだと)はどういうものなのかが理解できないのです。ここは先端科学でもかなり解釈の分かれるリアルタイム研究分野だそうですが、
これについてローレンス・クラウスは「無から宇宙が産まれた」と断言します。ローレンス・クラウスは神学者・宗教学者との討論が好きな人で、神学者からは「何かが生まれる要素がある状態を無とは言わない」と反論され、そこに更に「いや、完全なる無から宇宙は誕生するのだ」と再反論します。やはりここが数式が分からない我々には難しい。これこそが私が最も知りたい部分なのです。
ローレンス・クラウスは宇宙は誰が始めたのか、宇宙のあらゆる物理法則・定数は誰が決めていくかの原因の無限後退をする時に外部の「神」を持ち出すことが大嫌いです(ローレンスのあとがきはリチャード・ドーキンスで、ドーキンスに至っては神が支配するような世界にいるのは嫌という「反」神論者として有名です)。
私などという次元の違う一学生を例に出すのもおこがましいですが、私が重力加速度 g=9.81 [m/s^2]とか習った時に「ちょっと待ってその数字はどこから来たの?」と不安になりました。それは地球の総質量から求められるのですが、それを求める際にももうちょっと普遍的な範囲で使える定数が出てきます。最終的には上限速度である光速やプランク時間というような最小単位が出てきますが、その数字は一体誰が作ったの?と永遠の謎でした。調べれば原因が無限後退していくのです。そりゃあ神も考えたくなりますね。
それは未知のダークエネルギーの総量全て、というようなぼんやりした分からないものの集合体である宇宙定数のようなように解明の余地があるのかもしれません。ひも理論→超ひも理論→M理論では「最低これぐらいないと足りない」という次元が26次元ぐらいから現在10+1次元ぐらいまで減ってきているようですが(数学の分からない私達はカラビ・ヤウ空間)を見ても「へ〜そうなんだ」という感想しか出ないのが悲しい)
これを初めて知った時、どうして私達の感知出来る3+1次元に対して、残りの7次元はこんなにも小さく折り畳まれているのだろう?という疑問が当然湧いてきました。(ピアノ線は我々から見ると1次元だければ、そこの上を歩く蟻から見ると2次元地面であり、つまり我々からみると1次元分空間が折り畳まれている)
NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影 NHKスペシャル
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この宇宙はほぼ平坦であるということが宇宙背景放射の発見で証明されたといいますが、もし平坦でない宇宙があるとするならそれはどのようなパターンがあるのかというパターンを8パターン(覚えてる数字はこれであってるかな?)であるとNHK出版のこの本では述べていました。
一番簡単なのは四次元的に球であるというものです。地球の地面は二次元ですが、三次元的に球なのでまっすぐ歩いているといつか同じところに戻ってくる。つまり「端」は無い。
(私は小学生の時、これを真剣に疑った事があり(みんながそういうからそうだというのは変だ。私は地球を一周したことがない、という理由)、そのエピソードをSchranz Xという曲の冒頭語りに折り込みました。どうでも良い話。)
宇宙が四次元的に球である場合、ロケットが完璧に直進を続けたとするといつか地球に帰ってくる。これが球のパターンの宇宙の形。
あとは簡単にいうとドーナツ型とか、こういう形が大体トポロジー的に8つであるだろうと。実際に宇宙は大体平坦な訳だったわけですが(つまり宇宙は無限に進んでも折り返してこない、端がありしかもその範囲は膨張している)、観測不能な隣の世界の多世界では、折り畳まれた少なくとも残り7次元が膨らんでいる世界があるかもしれない。
隣り合った世界は物理法則が全く違うので互いに観測できることは一生ないかもしれないけれど、人間原理的に何故こんなに人間に都合よく3+1次元と折り畳まれた7次元(7かどうかも現状はよく分からない)は観測者・人間がいない宇宙ではもっともっと楽しいことになっているかもしれない(誰も観測することが出来ない宇宙は「在る(弱い人間原理)」と言えるのか「無い(強い人間原理)」と言えるのか)。不思議ですね。
最後に、これは宇宙論や科学の本を読んでいるといつも思うのですが、果たして数式が分からない私がこういった先端科学の本を読むことにどれだけの意味があるのか?ということです。南部陽一郎の「クォーク」はノーベル物理学賞を受賞したその内容について出来るだけ一般向けに執筆された本なのですが「最低限これぐらい数式を使わないと説明として意味をなさない」ということで結構な数の数式が載っています。私はこれがちんぷんかんぷんなのです。M理論とか言われても、式を見せられても何が何だかです。
ローレンス・クラウスは「真空はほとんどエネルギーを持っていないがゼロではない」ということを提唱し、それが証明されて宇宙が今も加速膨張していること、そのためにはそれがなんであるかが何もわからないダークエネルギーが宇宙系全体の70%を占めていることを(宇宙定数)証明することに多大な貢献をした人です。ダークマターを含めると私達が目で見て観測出来る「物質」は全宇宙の1%程度なのだと言います。
「そうなのですか、それは凄い。」でも私は思うのです。この論調で「針の上に乗る天使の人数は正確に5√2人であることが観測された」と言われても「そうなのですか、それは凄い。」と思うのではないかということです。
スティーヴン・ホーキングはビッグ・クエスチョンでは、そのような知識レベルの相手に一般書を書き記すことであっても「大いなる意味がある」と断言してくれています。これは私が長年これでいいのかなと思っていたことなのでちょっと背中を押されました。本って面白いですね。