自分語り#649【山田正紀 / クトゥルフ少女戦隊】感想 (2500文字)

クトゥルフ少女戦隊 第一部 (The Cthulhu Mythos Files)

クトゥルフ少女戦隊 第一部 (The Cthulhu Mythos Files)

 
クトゥルフ少女戦隊第ニ部 (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)

クトゥルフ少女戦隊第ニ部 (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)

 

★★★★★

山田正紀 1950年〜

日本SF作家クラブ 第12代会長

第6回星雲賞日本短編部門(1975)

第9回星雲賞日本長編部門(1978)

第11回星雲賞日本長編部門(1980)

第3回日本SF大賞(1982)

第26回星雲賞日本長編部門(1995)

第2回本格ミステリ大賞(2002)

第55回日本推理作家協会賞(2002)

 美学校の先生との雑談の中で「これは、面白いよ」と軽く紹介されたまま読んでしまった上下巻。「想像できないことを想像する」SF作家の大御所である山田正紀による「魔法少女まどか☆マギカの放送」を直接のきっかけとして書かれた、とされる「クトゥルフ×魔法少女」SF小説。

第一部を発表するまで近年、クトゥルフ神話×アニメ・漫画・ライトノベルという題材が沢山発行されていることを知らなかったという氏が書いた。んまぁ〜〜〜〜っ!本当にぶっとんだ小説!

ここまでぶっとんだ小説は久々に読んだ気がします。最初から最後までこの調子!?っていう。ラヴクラフトの「ただただ何の説明もなく圧倒的に存在する恐怖」の引用としてクトゥルフ神話や小松左京の「進化は正義なのか?」をメインに森羅万象はただそうであるからそうなのだ、合理的な説明など無いという、威圧的なまでの論理的説明の拒否、拒否、拒否の連続。物語全てが論理性と合理性の拒否で出来上がっていると言って過言ではない小説。ぶっとんでる!

タイトルやパッケージングだってかなり違和感があるのに付随する「ボーカロイドのテーマソング(Youtube上で実際に聴けます、歌詞が本気でどうかしてる)」や下巻で披露される「アニメ的?な決めポーズの絵」に至るまで違和感!違和感!拒否感の塊!

拒否されるのは神や進化という主題だけではない、むしろ全編を通して目立つのは「少女戦隊」と名乗り表紙に描かれる魔法少女の姿からも分かる通りのアニメ・ライトノベルへのお約束設定への合理的説明の徹底的拒否。なぜ私達は魔法少女なのか、なぜこんなヒラヒラした格好の少女が圧倒的存在と戦っているのか、なぜ彼女たちの目的は「ソレ」なのか、全ての魔法少女が「彼」を慕うこの「ハーレム設定」の合理的な説明は?拒否!拒否!拒否!この物語は私達が普段慣れ親しんでいるアニメ・マンガ・ライトノベル的な設定を物凄く頑固と言える程意図的に徹底的に拒否する。合理的な説明など無い、ただそうであるからそうなのだ。私は特にアニメ・ライトノベルのテンプレートな設定には物語として実は「完全に合理的」にこのような理由があったのだ、というドンデン返しを得意とする西尾維新(特に「伝説シリーズ」2作目から始まる魔法少女・四国ゲーム="魔法少女は殺し合う"の「なぜ魔法少女達はあんなにこっ恥ずかしいヒラヒラとした衣装で戦うのか」への「合理的な説明」は凄まじい)とかが好きなので、ここまでの徹底的な完全拒否には驚きました。

 

悲痛伝 (講談社ノベルス)

悲痛伝 (講談社ノベルス)

 

kodansha-novels.jp

これがライトノベル的お約束をただおちょくるための拒否とはとても思えない。はっきり言って的はずれな表紙の魔法少女イメージ、「萌え」「ツンデレ」「ヤンデレ」「セカイ」に至るまでのテンプレート用語の「誤用」なのでは?と思う程のズレ方、極めつけはボーカロイドのテーマソング(もう一回言うけど歌詞がどうかしてる!)と最終ページの明らかにズレたアニメ的決めポーズ、「魔法少女まどか☆マギカの放送」が起点であるとはっきり書かれていることと、近年のクトゥルフ×ライトノベル的作品の存在自体を知らなかったことがほぼ同時に記述されていること、これは明らかにおちょくっているのではなく本気でズレているのだと思う。

 

但しズレていることと主題のクオリティには全く関係がない。記述されている「萌え」「ツンデレ」「ヤンデレ」「セカイ」「ハーレム」は紛れもなく私達が普段のアニメ・マンガ・ライトノベルの世界で使い古されたテンプレートそのものであり、これに合理的な説明を徹底的・絶対的に拒否することそのものが、この物語の主題である進化・生死・絶対的恐怖に直結しており、切り離せなくなっている。つまりただそうであるからそうなのだ、合理的な説明など無い。

 

なんだこの小説は!?物凄くヘンテコなんです。しかも面白いのか面白くないのかといわれると別に面白くない、でも最高レベルにぶっ飛んでていて、あまりにも飛び出てるので思わず★★★★★をつけてしまう。直前に植物(稲垣栄洋 / 植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし)の本を読んだばかりなので更にダイレクトにくるものもありました。

植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし (ちくまプリマー新書)

植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし (ちくまプリマー新書)

 

こちらの本を読んでいてとにかく感じたことは、全ては「ただそうであるからそうなのだ、合理的な説明などない」のではないか?ということそのものでした。そしたら次に読んだ小説がこれそのもの。ビックリしてしまった。

 

面白いか面白くないかと言われたらよく分からない、むしろ面白くないと思う。でも間違いなく飛び抜けてる作品だ。学校であの先生が薦める訳だ。どうかしてるよこの小説!